吉野山や陸郷など日本各地に名所が点在するヤマザクラは、個性派揃いや個性豊かと称される山桜の代表的な種類になります。
山桜は山野に自生する桜を示す分類ですが、有名な桜のソメイヨシノは品種改良されているので、山桜ではなく里桜の種類に含まれています。
桜の野生種に当てはまるヤマザクラとは、どのような特徴を備えた桜の品種なのでしょうか?
ヤマザクラの基本情報や特徴に加えて、種や苗木からの育て方と注意すべき病害虫についてまとめてみました。
ヤマザクラとは
宮城県以西の本州や四国のほか、九州に分布しているヤマザクラは、和歌にて数多く詠まれているバラ科サクラ属の落葉高木です。
ヤマザクラの樹高は10メートルから25メートルほどにまで育ち、互生葉序している上に長楕円形の葉には鋭い鋸歯もあります。
3月下旬から4月上旬になると開花と展葉がほぼ同時に進みますが、展葉直後の若葉は紅色に近い色合いになっています。
ヤマザクラは2個から5個があわさった散房花序で白色や淡紅白色の花を咲かせるため、開花期には花と若葉の美しさを大いに楽しめるでしょう。
展葉直後の若葉は紅色に近いものの、少しずつ緑色に変わりますし、5月から6月には黒紫色の小さな実が熟します。
秋の紅葉はソメイヨシノよりも見た目を評価される傾向にあり、横縞が目立つ紫褐色の樹皮は樺細工の材料として人気を集めています。
ヤマザクラの特徴
ヤマザクラは個体変異が起きやすい特徴を持っていますので、同じ場所に自生していても開花時期にはズレがよく起こります。
全体的に見ればヤマザクラの開花期は長くなりますから、桜の中でもヤマザクラは花見を楽しみやすい品種に該当します。
もちろん開花と展葉が同時に進むことも主要な特徴に数えられますが、これは全てのヤマザクラに必ずしも起こるわけではありません。
ヤマザクラの個体変異は開花と展葉にも影響するため、大半のヤマザクラが該当する程度になるでしょう。
また、ヤマザクラは寿命の長い桜として知られ、岡山県の尾所には樹齢500年を超える個体も存在します。
さらに胸高直径が1メートルを超えるヤマザクラの幹は、反りや狂いが少ない上に粘りや耐水性を備えた材木として重宝されています。
磨くと光沢が出るヤマザクラの幹は加工性も良く、楽器や仏壇の材料としても役立てられています。
山桜の代表的な種類について
固有種と交配種をあわせると600種以上の桜が確認されているものの、桜はシンプルに山桜と里桜に分類できることをご存知でしょうか?
山野に自生する桜は山桜に分類され、品種改良された桜は基本的に里桜と呼ばれています。
ヤマザクラはこの分類で山桜に含まれますが、ヤマザクラ以外の代表的な山桜は以下の品種になります。
★ヤマザクラよりも大きい花や葉が付くオオヤマザクラ
★若葉を塩漬けにして桜餅に使えるオオシマザクラ
★開花と展葉は同時に起こるが葉は新緑色になるカスミザクラ
★長寿の品種で彼岸ごろに薄紅色や白の花を咲かせるエドヒガン
桜の中でも特に有名なソメイヨシノは、山桜のエドヒガンとオオシマザクラにおける交配種です。
山桜とヤマザクラは少しややこしいかもしれませんが、山桜には里桜に負けない様々な特徴を備えた品種が揃っているといえるでしょう。
ヤマザクラの育て方とは
ヤマザクラの種はそもそも市販されていないため、種から育てたい場合にはヤマザクラの成熟果実から採取したものを使います。
種は湿らせた状態で10度以下の温度にさらしながら保存しておき、12月頃に種まきをする手順を守らなくてはいけません。
また、苗木からヤマザクラを育てたいときには、落葉期に該当する11月から12月の植えつけが向いています。
植えつけ場所には日当たりの良い肥沃な土地を選び、桜を育てる場合と同様に自然樹形を広げられるスペースを確保してください。
加えて、ヤマザクラは剪定の切り口から腐りやすいので、剪定をするのなら癒合剤を活用することが必須です。
煙害が起こり得る都市部も栽培環境に向きませんから、ヤマザクラを育てる際には植えつけ場所を慎重に決めましょう。
ヤマザクラにて心配される病気や害虫
ヤマザクラを育てるときに注意すべき病気には、天狗巣病と根頭がん腫病があります。
天狗巣病は病気の枝を付け根から取り除く方法で対処できますが、根頭がん腫病はこぶの切り取りと土壌消毒を併用する対処が必要です。
ヤマザクラに発生する主な害虫には、アメリカシロヒトリとオビカレハのほか、コスカシバがあげられます。
アメリカシロヒトリとオビカレハは葉の食害を起こす害虫なので、見つけたら薬剤の散布による駆除が欠かせません。
これに対して、コスカシバは幹や大枝といった箇所に侵入して、内部に食害を起こすだけでなく食害部を広げながら枯れ死される害虫です。
寄生量が多いとヤマザクラそのものを枯れ死させかねないため、被害を確認した場合には食害部の表皮を削った上での薬剤駆除を要します。
まとめ
バラ科サクラ属のヤマザクラは、寿命が長い上に個体変異が起こりやすい特徴を兼ね備えた野生種の桜です。
このほかにも、大半の個体で開花と展葉が同時に進むことや、幹や樹皮が木材として重宝されていることもヤマザクラの特徴になります。
ヤマザクラは宮城県以西の本州などに自生していますが、植えつけ場所を厳選すれば、庭木として育てることも不可能ではありません。
ただし、ヤマザクラではコスカシバなど病害虫の被害が心配されますから、栽培時には幹や葉のチェックをしっかり行っていきましょう。